諸葛亮は現代中国人(若い世代)にはどう思われているか?



 中国在住の方より、現代人の諸葛亮評価について情報をいただきました。ここにご報告致します。

本題の前に現状解説から書きます。
前置きを飛ばしたい人は目次をお使いください。


日本における諸葛亮評

昨今の日本ではアンチの悪口の的となり、極めて低い評価で語られている諸葛亮・孔明。
まるでアイドルグループのセンターのごとく憎まれ、大量の悪口をネットに書き込まれています。さらにプロ作家(酒見賢一)や歴史学者(孔子学院/渡邉義浩・柿沼陽平)も諸葛亮の誹謗中傷本を出版し、金儲けしています。 

※アンチ蜀の書き込みを行っているのは主に反日の活動家たちです。彼らにとって諸葛亮は特に「憎き日本」の象徴だから貶めなければならない、とされています。最近では諸葛亮を共産主義者ふうのリーダーとして作り変えることに勤しんでいるようです。参照 ⇒ 三国志ジャンルの捏造記事について +蜀ファンへメッセージ

この通り理屈の通らない妄想的な作り話で罵る人々は、ただ悪口を言うためだけに作られたロボットのよう。炎上事件の誹謗中傷やヘイト書き込みと同じく、客観性ゼロの悪口の異常さと妄想ぶりに気持ちが悪くなります。

いっぽう、かつて諸葛亮を好んでいた日本人の評価にも偏りがありました。
フィクションである『三国演義』をそのまま現実と思い込み、「神算鬼謀の天才軍師」 とのストーリーを信じて崇める。史実は一切見ない、見ても信じない。(何が本当か考えようともしない)

私はどちらも誤っていて、歴史に対する誠実さに欠けると思います。
崇拝するのも貶めるのも、史実をおろそかにする罪があります。それは現実に生きた人間の人格を傷付ける行いです。


90年代までの、中国における諸葛亮評価

では本国の中国では、諸葛亮はどのような扱いを受けているのでしょうか。

1989年ベルリンの壁崩壊頃まで、中国には歴史教育がなかったようです。
それでも『三国志』は有名ですから当時の若者でも人物名を知っていましたが、完全に架空のファンタジーだと思っていて、「三国志人物が実在していたとは知らなかった!」と言う人が多かったものです。
そのようにファンタジー人物扱いされながらも、民間信仰で祭られている関羽はやはり圧倒的な人気で、次に劉備・張飛という順で人気。
戦場で戦わない諸葛亮は「怠け者※」と呼ばれあまり人気がなく、知名度も低いほうで、むしろ『演義』孔明のモデルとなった劉基伯温のほうが知名度・人気ともに高いと聞きました。
政府により、歴史学会で諸葛亮を貶める政策が採られていたことも彼が人気のない理由であったでしょう。
ネットで諸葛亮の悪口を書き込んでいる現代日本の一部の人たちは、この当時の中国政府の政策を未だに引きずっているわけです。

※諸葛亮は怠け者:「煤払いの孔明(諸葛亮)、赤子を抱く」という諺が典型的です。この諺は「大掃除の時に赤子を抱いていれば労働を逃れられる」ことから、「高見の見物をしている日和見主義者」「狡賢い人」の意味。賢さを表す褒め言葉として使われることもあります。

現代中国人は、諸葛亮をどう見ている?

以上は1990年代半ば頃までの中国事情です。

私も知らなかったのですが、最近の中国事情はかなり変化しているそうです。
他の国々のように歴史教育も普通に行われるようになり(と言っても「普通」であるのは古代史のみで近代史には疑問が残りますが)、今の20代~30代前半の若者たちは『三国志』人物も実在の人として学校で習ってきたようです。
このため現代中国人の歴史学力は急激に向上しています。

以下、中国のネット書き込みより「現代中国人 諸葛亮評」を引用していきます。
筆者は古代中国語・漢文なら翻訳できますが現代中国語はさっぱり分かりません。
この書き込みを見つけてくださり、翻訳してくださったのはHNブタノハナさんです。感謝!

「史実の諸葛亮は本当に三国演義のように凄いんですか??」回答


こちらは中国版yahoo知恵袋のような、『百度知道』の質問と回答です。
历史上真实诸葛亮真的像三国演义里那样厉害??

→https://zhidao.baidu.com/question/396720676/answer/2859389599?entrytime=1545588300312&fr=index_ans&word=aizhanzuo%20
アーカイブ
「史実の諸葛亮は本当に三国演義のように凄いんですか??」と質問されています。日本でもよく見かける質問ですね。

この問いに対する回答、aizhanzuoさん2017/12/28
怎么说呢,每个人理解的角度不同吧。三国演义里描述的诸葛亮“多智近乎妖”,当然是引人反感,甚至让人因此翻案说诸葛亮其实不咋样。 我觉得诸葛亮很牛,比三国演义里的还牛。当然不是什么奇门遁甲木牛流马之类的法术了,而是作为一个活生生的人,历史上少有人能达到他的水平。
日本語訳
「人によって見解は違うし、三国演義では諸葛孔明を妖のような智識を持ち合わせた人物として描写されているため、反感を買いやすいだろう。 だけど自分は諸葛孔明が一番すごいと思っている。三国演義の中の諸葛孔明よりもすごいと思う。もちろんそれは法術(魔法)ができたからではなく、一人の生身の人間として、歴史的にみても彼のレベルに達した人は少ないと思う。」

理由として三つ上げられていますが長いので要約すると、一つ目は「分析能力」二つ目は「戦略、統治」について語られています。
三つ目のみ翻訳していただきました。
第三个,人格魅力吧。十七八岁不懂事的时候读语文课本里的《出师表》,完全是按老师要求死记硬背,一点感觉都没有。今天再看前后两篇出师表,把自己代入到那个年代,你会看到一个孤独又伟岸的老头,在深夜皱眉苦思、临表涕零,就会明白这几百个字被赋予了怎样的情感和执着,就会明白为什么这篇文章会被传诵千年,孔明为什么这样被人敬仰。有时间有兴趣的可以再翻开体验一下。

日本語訳
「三つ目: 人格魅力でしょうか。 17-18歳のガキだった頃に国語の時間で【出師表】を読んだときは、完全に先生に無理やり勉強として暗記させられただけで何も思わなかった。でも今日、前と後を二回読んでみて、自分を当時の時代に入り込ませるとそこには深夜に眉をひそめて、先帝に綴る文を前にして涙が堪えられない孤独で品の良い老人がいる。どのような情念と執着がこの何百文字に込められているのか、なぜこの文章が千年も伝誦され語り継がれるのか、なぜ孔明がここまで人に敬われるのかが判るだろう。時間があり興味があれば一度読まれると良い。」

「伝説を除くと、諸葛亮はどんな人ですか?」回答

同じく百度知道の質問回答です。
除去诸葛亮的传奇色彩,历史上的诸葛亮是怎么一个人?

→https://zhidao.baidu.com/question/66473217/answer/227724224?entrytime=1545588592650&fr=index_ans&word=
アーカイブ

直訳で訳せば「諸葛亮の伝奇的色合い(幻想フィクションの伝説)を除くと、歴史上の一人の人間としての諸葛亮はどうですか?」となりますか。つまり「現実の諸葛亮ってどんな人?」という質問。

回答、MZTPBさん2016/11/29
《历史上的诸葛亮》 相比之下,为后人所熟知的诸葛亮是罗贯中笔下《三国演义》里那个能呼风唤雨接近神灵的诸葛亮。千百年来,诸葛亮是中国人理想中的修身,齐家,治国,平天下的完美代表。他的政治家,军事家带有浓厚的传奇色彩。而历史上真正的诸葛亮渐渐模糊,他的生平当真有过“借东风”“空城计”“草船借箭”“七擒孟获”等等这些事迹吗?一代武侯的这些故事里到底有几分真假? 历史上诸葛亮的真实故事同样纷呈多彩,但他也是一个有血有肉的凡人。诸葛亮虽然博学多才但也并非无所不能。他虽然精通谋略也时常失算。诸葛亮有着高尚的人格,却也有性格上致命的弱点.

日本語訳
「歴史上の諸葛孔明に比べると私たちにとって羅貫作の三国演義の諸葛孔明の方が馴染みがあるだろう。千年もの間、諸葛孔明は中国民族の理想的な修養、治国の完璧な代表例である。軍事家として、政治家として、彼は濃密なまでに伝説化する要素が多彩にあった。しかし歴史上の本当の諸葛孔明は果たして本当に様々な戦略(略しました)を成し遂げたのか。どこまでが本当なのか。 三国演義ではない歴史上の諸葛孔明の物語も同様に多彩ではあったが彼も生身の凡人である。確かに博識ではあったけれど決して万能ではなかったし、策略に特化していたが計算違いも多々あった。諸葛孔明は高尚な人格ではあったけれど性格上致命的な弱点もあった。」

史実の説明は長いのでカット、結論
鞠躬尽瘁,死而后已。诸葛亮成败暂且不论,他的执着追求,他的忠心耿耿却一直被后人所景仰,无怪乎罗贯中把他神话成人们心中完美的偶像。 陈寿也夸奖他“亮性长于巧思,损益连弩,木牛流马,皆出其意;推演兵法,作八陈图,咸得其要云。亮言教书奏多可观,别为一集。”如此好评,等等等等。

日本語訳
「鞠躬尽瘁,死而后已(慎み深く最期力尽きるまで全身全霊で仕事に打ち込み、死んでようやく終わる) 諸葛孔明の業績はさておき、彼が執拗なまでに追求する姿勢、彼の忠誠心は後世の人々に長らく尊重されており、羅貫が彼を作中で神格化させてもおかしく思う人がいないほど人々の心中の理想像である。 陳寿も彼を褒め称えていた。」

知恵ノート「諸葛亮について」

こちらは中国版yahoo(旧)知恵ノート、のようなページでしょうか。→『东坡说历史』さんの解説文より引用。
公元234年,诸葛亮患重病死在五丈原,年仅54岁。根据诸葛亮生前愿望,葬于定军山,死时倚山造坟,墓穴大小只盛下棺木,只穿平时的衣服,不放陪葬品,死后谥号忠武侯。“鞠躬尽瘁 ,死而后已”,这是诸葛亮的誓言,也是他一生的写照。诸葛亮生前大功盖世,但他清清白白,堂堂正正,不奢侈,不贪不吝,不矜不傲,其高风亮节深受人们爱戴和尊敬,后大诗人杜甫有诗:丞相祠堂何处寻 ,锦官城外柏森森。映阶碧草自春色 ,隔叶黄鹂空好音。三顾频烦天下计 ,两朝开济老臣心。出师未捷身先死 ,长使英雄泪满襟。
日本語訳
「諸葛孔明の生前の要望により、軍山に埋葬され、棺桶がちょうど入るほとの大きさの墓穴で、普段着を身につけ埋葬品は要らずに死後の名を忠武候とした。"鞠躬尽瘁 死而后已"は彼の誓いであり、彼の生き方そのものだった。生前世に名を馳せたのにも関わらず、清白で公明正大、贅沢せず貪ることなく、誇らず驕らず、そのような人格が大衆に深く愛されて尊ばれていた。後世の詩人、唐時代の杜甫の詩『蜀相』が紹介されている。」

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感想

彼らの諸葛亮に関する評価について、妥当なのかどうか私には分かりませんが、少なくとも日本人より遥かに高度な客観性をもって歴史人物を眺めていることは確かです。
正直ここまで急激に教養が増しているとは思わず、驚きを禁じ得ませんでした。未だに20年前のイメージで「現代中国人は幻想の箱のなかにいる」と思い込んでいた私は失礼を詫びたいと思います。

ファンタジーを排して諸葛亮および三国志人物を眺めようとしている冷静さ、客観性は尊敬に値します。
歴史上、ここまで客観的で現実的に諸葛亮を評価した中華の民はいなかったのではないかと思います。諸葛亮とほぼ同時代に生きた陳寿は彼らのレベルに近い客観性を持っていたのですが、それから僅か後に生まれた裴松之は既に伝説に脳を侵されてしまっています。
もしかしたら一度伝統を断たれ、歴史を手放してから再び学んだので中華の民はこの客観性を持ち得たのかもしれません。そう思うと悲しい歴史の結果です。しかし苦しみがあってこその成長です。

【改稿・追記】
以下「現代一般の中国の民はここまで成長しています」と褒めていたのですが、最近Twitterで中国人の発言を眺めているとそうでもないようなのでカットします。
やはり共産教育を受けた中国人は、曹操などの民衆虐殺を賛美し、嘘をつくことや残虐行為を「正義」と主張する人間性を失った人が多い。
おそらく上の書き込みをしている人々は1980年代生まれ、かろうじてまともな歴史教育(ただし古典に限る)が行われた僅かな時期に育ったものと思われます。その後、政権が代わり元の歪んだ中共的な歴史教育へ戻されたようです。残念に思います。
ですが、この世代の書き込みは「教育次第でどの国の国民も人間性を持つことができる」という証。希望と言えます。

翻訳者よりメッセージ

最後に、上のページを見つけ翻訳までしてくださったブタノハナさんよりいただいたメッセージを掲載しておきます。
軽く調べても大量の文が出てきます。中には評価しない内容もありますが、ほとんどが諸葛孔明という方の生き方に敬意を表しています。
勝手にこのようなものをお送りして申し訳ありません。ただ吉野様にこの事実をお見せしたかったのです。
神格化された彼ではなく、一人の生身の人間として千年以上の歳月が流れた今でも語り継がれる尊い生き方をされた彼の真実は決して歪められるほど安価なものではありません。
ですからどうか無知に対する憤りにどうか身体を壊さないでください。

日本人による下劣な誹謗中傷を見て怒っていた私へのメッセージでした。純潔なお心と人の温かみを感じます。何もかも、本当にありがとう。
上の回答解説を書いてくださった中国の方々にも、多謝。人間らしい言葉に救われる。

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